一般的に考えると、マンションリノベーションのインテリア素材決めの打ち合わせの際に、高品質のCG(コンピューターグラフィックス)があれば、空間と素材がどのように呼応してくるのかの想像がしやすく、よりスムースに決定ができそうですね。
デザイン設計が進行中の渋谷区N邸では、打合せ室に設計担当の前田のパソコンとモニターを運び入れて、CGで壁素材や扉仕上げを変えながら、どの素材とデザインがしっくりくるかを打ち合わせさせて頂きました。
これら4つのCGはすべて玄関ホールの壁と左手リビングダイニングへの扉のバリエーションです。左上のA案は正面壁はビニールクロスのパネル壁と木製の濃い色の建具案、B案はスクラッチ模様の入った濃い灰色のタイル壁と木製の濃い色の建具案、C案はサルバトーリの加工大理石(ビアンコカラーラ)のトラッティ仕上げとレザー張り建具案、D案はスクラッチ入り白色タイル壁とライトグレーの木製建具案となります。最初に、前田君といくつかの部品を作っておいて、それを切ったり貼ったりしながら色々なバリエーションを見ながら確認していただきました。
お客さまの判断には、デザインだけでなく、素材の単価によって変わってくる価格のことも大きく影響してくるので、工事をお願いする施工会社の担当者に同席してもらい、どのくらいの費用感になってくるのを同じタイミングで概算してもらいながらのご説明となりました。
デザインと金額のバランスから、D案のスクラッチタイルと塗装建具で進めることが決まりました!
玄関とリビングダイニングとキッチンで使う素材をひと纏めにしてみた素材写真がこちらです。お客様からは「図面だけでは想像できないことがCGでは確認することができるので、本当にスムーズに素材決定をすることができました」と喜んで頂きました!
こうやって見ると、空間と素材のテクスチャーと色味、照明などの具合を確認しながら打ち合わせができるCGは、万能のように感じられますね。しかし、本当はそれほど万能ではないのです…。
例えば、上の写真では、ダイニングテーブルに使う大判セラミックタイルの大理石柄を確認していただいている様子ですが、CGでは、本物の大理石とセラミックタイルの大理石柄の違いを表現することができません。極端に言えば、本物の大理石でも大理石柄のメラミンでもCGの表現は同じになってしまうのです。同じように無垢の木材と天然木の突板、メラミンの木目調も同じに表現されてしまいます。
こちらは後日、トイレや洗面のCGと素材感を確認した際の打ち合わせの様子です。CGでは、使う素材を撮影したり、似た素材写真を探して、色の深みやツヤ、ザラザラ感などを似せて画像を作っていきますが、本物とはどうしても違いが出てしまいます。この打ち合わせのようにCGの床素材は、実際はこのサンプル素材ですと指さし確認(笑)をしないと、「出来上がった空間とCGが違って見える」という残念なことになってしまうのです。CGはあくまでもコンピューターの画像上の想像図でしかなく、実際の空間はもっと豊かで、思いもしない深みがあることをご説明するようにしています。
先回の打ち合わせで玄関の素材が決まりましたが、扉を開けてリビングダイニングに入ろうとした瞬間に見えてくるキッチンの扉の色ですが、当初はキッチン側から見て決めていた色だったので、今回のCG打ち合わせで、スクラッチタイルに似せた色味として、壁と引き込み扉が一体に見えるように調整しました。
CGでは細かいディテールの表現が難しいことも事実です。異素材がぶつかり合った箇所は、何かで見切るのか、ぶつけるのか、目地を取って逃げるのかといったディテール手法がありますが、そういった細かいディテールをCGは適当にゴマかすことができてしまうのです。
これは最終的に決まった渋谷区N邸の素材サンプルをボックスに入れたものです。
CGの良い点と問題点をここまで書き連ねてきましたが、実はCGは写真レベルまではもう少しなのだと思っています。写真もフォトショップというソフトでかなり自由に加工することができるようになっていますが、それでも現実の空間を撮影した写真で、現実の空間を表現することができるかといえば、まだ不満があります。しかし、CGの技術は日進月歩ですから、もう少しで写真のレベルまで追いつきそうです。僕らが使っているD5レンダラーというソフトでは、レイトレーシングという「光が壁材やガラス、家具などの表面などで起こる光の屈折や反射などをコンピューターで計算して、より現実に近い映像を作り出す」技術を使いだして、抜群にリアルに見えるようになってきました。建築素材や高級家具などのカタログやサンプル写真は、よほどのプロでないと、リアルな写真なのかCGなのかが見分けられないようになっているのが現実なのです。
ただ、そういったリアルかどうかといった技術的な問題とは別に、CGを使ってインテリアの打ち合わせをすると、お客さまも僕ら設計も発想力が乏しくなってゆく気がしています。小説を読むのと、その小説を映像化したドラマを見ることの違いような感じです。ドラマの方があまり深く考えずに気楽に楽しめますが、小説の方が発想が飛躍してそれが記憶に定着してゆくのだと思います。
この「CGを使ってのインテリア打合せ」には、それ以外にも色々と深い問題を内蔵している気がしていますので、また別の機会に考えてみたいと思います。